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東京高等裁判所 昭和39年(う)1231号 判決 1966年3月16日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

(当裁判所の判断)

本件控訴趣意は、原判決の不告不理の原則違反、理由のくいちがい又は理由を附しない違法、事実誤認等を主張するものである。

ところで法人税法の定めによれば、法人税の課税標準たる法人の各事業年度の所得は、その当該事業年度の総益金から総損金を控除した金額によるとされ、具体的には各事業年度の総益金及び総損金の内容を構成する個々の益金又は損金、換言すれば純資産の増加又は減少の原因となるべき一切の事実を法人の貸借対照表ないし損益計算書を通して把握し、これに税法の規定を適用して益金又は損金の算入不算入等所定の調整を加え、いわゆる所得計算を経て算出し得た金額が課税の対象たる所得金額となるものであるから、法人税逋脱の罪となるべき事実を構成する実際の所得金額を確定するにあたつては、その前提として、当該事業年度の総金及び総損金の内容をなす個々の益金又は損金、すなわち純資産の増加又は減少の原因となるべき各個の具体的事実を証拠により認定する必要がある。しかるに、原判文によれば、原判決は、「脱税事件においては、とかく真実の取引を記録した帳簿書類が不備なため成果計算法(損益計算書)及び財産計算法(貸借対照表)の両方法によることができず、財産計算法だけによつて所得金額を計算することになりがちであるが、またこの方法で足りるのである。しかし、それにしても、期首、期末の資産、負債を構成する各勘定科目について、いずれも証拠にもとずいて確実に把握して計算しなければならないことはいうまでもない。……」としながら、本件において検察官が公訴事実記載の実際の所得金額の内容として主張する修正貸借対照表に掲げる資産及び負債に属する各勘定科目につき、「期首売掛金について……とうてい証拠によつて確実に把握して計算したものとは認めがたいのである。それゆえ、当期の期末売掛金、月賦未収分商品高、棚卸商品高等についても、いずれも問題点があるが、当期の期首売掛金にして単なる推定にとどまり、証拠によつて確定することができない以上、これらについてとりあげるまでもなく、本件当期の所得金額は、結局、財産計算法によつては、計算できないことになるのであるが、やむをえないところである。」とし、結局前記各勘定科目についてこれを証拠により認定することなく、卒然としてその挙示する証拠により、単に結論的に、本件事業年度分の所得金額は、申告額たる七、八九六、一〇〇円を少くとも八、〇〇〇、〇〇〇円以上超えていたことが認められると判示したことは、判決の理由にくいちがいがあるか又は判決に理由を附しない違法があるものといわなければならない(原判決挙示の証拠によれば、被告人岡本及び柳瀬渉等の被告会社の従業員等が国税局の査察及び検察官の捜査の段階において数額は別として脱税の事実そのものは終始これを認めていたことがうかがわれるし、又右柳瀬は、かつて永く税務官署に勤務して税務に明るく、被告会社に入社後同社の経理に裏勘定があることを関係者からかねて聞いており、本件脱税について国税局の査察があつた当時も、社長と相談のうえ被告会社の当期利益を実際より八〇〇万円ぐらい少く見せそれだけ脱漏所得の認定額が減るようにするため、沢登に頼み本事業年度において数回にわたり合計八〇〇万円を同人から借り受けた旨の虚偽の上申書を作成して国税局の係官に提出したことなどがあり、会社内部の経理事情にかなり通じていたことが認められるのであるが、そのような立場にあつた同人が検察官に対し当期の利益は二、四〇〇万ないし二、五〇〇万円ぐらいと思うと述べたことを他の関係証拠と比照すれば、右利益金に関する数額はあながち根拠のないものとはいい難いので、この前提に立つて柳瀬が供述した前記八〇〇万円の借入を仮装した事実を考えると、原判決がその掲げる証拠によつて少くとも八〇〇万円以上の脱漏所得があつたと認定したことは、常識的な推測としては必ずしも是認できないものではないといい得るに過ぎない。)。してみれば、他の控訴趣意に対して判断を加えるまでもなく原判決はこの点において破棄を免れない。(足立進 栗本一夫 浅野豊秀)

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